本というと多くの場合作者や内容に触れられがちですが,思わずジャケ買いしちゃうことも往々にしてあるわけで,装丁もとても大切なお仕事です。そしてこのインパクトのある装丁を施したデザイナーさんは川谷康久さんです。(注1)
ホームページも作成されているようですので是非ご覧あれ。絵と文字が見事に生かされたデザインが多数見られます。
注1:装丁と書かれている以上,この本の表紙全体のデザインは川谷さんでまず間違いないと思います。ですが,タイトルロゴ及び各話見出しを作成したのは誰か? というのはとても難しい問題です。川谷さんかもしれないし,作者のサブロウタさんかもしれないし,編集さん,はたまた別の人かもしれません。この辺の世界観の決定については誰が決めたか触れられないことのほうが多いです。ですので,「この漫画の世界観を「Adobe Caslon」で統一した人は誰か」はわかりません。
書体に触れる前に
身も蓋のないことを言うとパッと見た印象が似通っているフォントを比べることにあまり意味はなく,字間や行間に気をつけ,きちんとした空間に配置すれば美しく見えるものです。
ですので,本当に優れたデザイン力の獲得を目指す人はこのような小さな差にこだわるべきではありません。
もっと実力の差がはっきり目につくことにコスト(特に時間)を投入しましょう。(構成力とデッサン力に色彩など)
Caslonって?
Adobe Caslon書体見本 |
残念ながらWikipediaでは日本語の記事は作成されていないようです。(2014/11/01現在)
Wikipediaを軽く日本語訳しますと,以下の通り。
イギリスのWilliam Caslon(ウィリアム・キャスロン(キャズロン? カスロン?))さんによって1734年に設計された傑作書体で,アメリカの独立宣言文にも使用されています(ほんとに? 私には見分けられませんでした)。
彼の書体は後世に多くの影響を与え,John Baskervilleさんによる「Baskerville」,そしてGiambattista Bodoniさんの「Bodoni(ボドニ)」,Firmin Didotさんの「Didot(ディド)」へと影響が連鎖していきました(俗に言う,Old Style → Transitional → Modern Styleという書体分類の流れです)。
現在ではAdobeソフトにたいていついてくることもあり,数あるCaslonの中でもAdobe Caslonをよく見かけると思います。Adobe Garamondと並びAdobe社の代表的書体の一つと言えます。
実際に検証していきましょう
第3話表紙 | 第8話表紙 |
この2つの表紙から各話の見出しに使用されているフォントが「Adobe Caslon」であることが分かります。(ここからはひたすらに各文字の特徴を比べていく作業となります。)
まず第3話表紙から比べていきましょう。フォントを比べなくてもある程度候補を絞れます。
1.Serif書体である。
2.Modern Styleではない。
数字の3を見れば一目瞭然ですが,まずは小文字の「y」を見ていきましょう。
下の黒丸がオリジナルは左上に若干跳ね上がっています。これがCaslonの特徴1です。GaramondかCaslonかわからない時はまず小文字の「y」を見ましょう。
そしてオリジナルの数字を見ればGaramondとは全然形が違うことがわかるかと思います。Caslonはとても似てますね。ここで「Caslon」であることがほぼ確定したといえるでしょう。
ただし,このタイトルだけでは他の表紙もCaslonであるかわかりません。また,Adobe Caslonであるとも決められません。
そのため第8話表紙も見てみましょう。
いろいろな「Caslon」をFonts.comより選んでみました。ここで見てほしいのは数字の「8」と小文字の「f」ですね。明らかに下の3種類は形が違います。
では,上の3種類はどうでしょうか? 小文字の「f」を見比べても良く分かりませんね。数字の「8」はどうでしょうか?
Adobe Caslonの「8」は何回見ても上下逆に作っちゃったんじゃないの?って感じちゃいます。上の膨らみ方からこれは「Adobe Caslon」だって決めちゃいたいですが,急いてはいけません。念のために第3話表紙ともう一回比べてみましょう。
これで大丈夫ですね。上の2つは明らかに小文字の「3」の真ん中への食い込み方が浅いのがわかります。これで各話見出しのフォントが「Adobe Caslon」だということが分かりました。
ではタイトルはどうでしょうか?
タイトルと比べてみる
citrusタイトル |
では「Adobe Caslon」と比べてみましょう。
全く違いますね。書体の高さもヘアラインの細さも全然違います。
ですので,タイトルロゴはAdobe Caslonではなさそうです。(ただしベースとした書体がAdobe Caslonである可能性は微レ在?)
ちなみに表紙に使われている数字フォントは「University」です。個人的には大文字の「R」がすごく可愛いと思います。「Nicolas Cochin」と「Broadway」,「University」でどれが欲しい? と聞かれたら1週間ぐらい悩んじゃうかも?
最期にSabon Nextの紹介を
とても長い記事になってしまいましたが,最後に「Sabon Next」の紹介で終わらせていただきたいと思います。
なぜって? このタイトルに似た書体がないか探しているうちに見つけたこのフォントをついつい衝動買いしてしまったからですよ!?
「Sabon Next」はドイツのJan Tschichold(ヤン・チヒョルト)さんが1966年にGaramondを改刻した書体「Sabon」をJean François Porchez(ジャン・フランソワ・ポルシェ)さんがさらに改刻した書体です。(ポルシェさんはパリの地下鉄の書体を製作した人。Adobeにインタビュー記事があります。フォントはここで買えます。Apollineとかすごく好みです。)
ちなみに購入される場合はFonts.comさんがおすすめです。使い勝手の良い「Reguler,Italic,Display」の3点セットが購入できます。(なぜかLinotype.comではこのセットだけ売っていない。)また,期間限定か不明ですがWebfont版もお値段そのままに購入できました。これはお得かも!?
Sabon Next Regular |
Adobe Garamondとの比較 |
うん。数字の「4」か「5」を見ない限り絶対に違いに気づいてもらえなさそうだ。数字の4か5を見たうえでもAdobe Garamondって言われそうだ。
初めにフォントを比べることにあまり意味がないって言った意味を分かっていただけたでしょうか?
それでも知識として参考になれば幸いです。長文失礼しましたm(_ _)m
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